脳の形成・発達に影響を与える遺伝・環境要因の探索
- 公開日: 2022-10-28
- 変更日: 2022-11-04
- 投稿者:鹿児島大学南九州・南西諸島域イノベーションセンター 研究・産学地域連携ユニット
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【研究の背景および目的】
私たちが脳を使って情報を処理・記憶し行動を選択・実行するとき、脳内では神経回路が「演算」を行っています。基となる神経回路は脳の発生・発達期に作られ、その過程では1000億個以上の神経回路素子(神経細胞)が正しく配置・配線されることが必要。配置・配線の異常は、発達障害等の脳疾患の一因とされます。我々は実験動物への特殊な遺伝子導入技術により、脳の形成・発達に影響を与える遺伝・環境要因を同定し、脳疾患の原因を探るのに必要なモデル動物の作成に取り組んでいます。
【おもな研究内容】
脳は多種類の神経細胞が複雑につながった回路構造をしているため、特定の神経細胞や神経回路を標識して研究することが重要です。
我々は子宮内電気穿孔法という手法を用いて、特定の神経細胞(例えば大脳2/3層の興奮性神経細胞)や特定の神経回路(例えば右半球と左半球をつなぐ脳梁という神経回路)を蛍光タンパク質で標識し、複雑な脳の神経回路の中で注目したい神経細胞・神経回路のみを浮かび上がらせる実験系を確立しています。
さらに、脳の発生・発達期に重要な働きをする遺伝子を操作することで、正しい配置・配線のしくみを明らかにする研究を行ってきました(Journal of Neuroscience, 27, 6760-6770, 2007; Nature Neuroscience, 18, 1780-1788, 2015; Cerebral Cortex, 26, 106-117, 2016; eLife, 11, e72435, 2022等)。
また、この技術を疾患基礎研究に発展させ、ヒトの発達障害原因遺伝子の変異が神経細胞の配置・配線にどのような影響を与えるかを明らかにする研究も行っています(Cerebral Cortex, 24, 1017-1029, 2014; Frontiers in Neuroscience, 15, 747951, 2021等)。
【期待される効果・応用分野】
ヒトの発達障害原因遺伝子の変異を組み込んだ疾患モデルマウスを作成することにより、脳の神経回路・機能のどこがどのように障害されているかの原因究明、疾患モデル動物の行動解析が行えます。障害回復のための薬剤探索など治療法につながることも期待されます。また、脳の形成・発達は遺伝要因と環境要因によって左右されますが、環境要因は遺伝素因に大きく影響を受けることがわかってきました。遺伝要因と環境要因の相互作用を明らかにする今後の研究にも我々の技術は役立ちます。
【共同研究・特許などアピールポイント】
●鹿児島で発見されたヒト発達障害原因遺伝子の疾患モデルを、鹿児島大学病院の神経科精神科と共同研究しています。
●脳の配置・配線異常の遺伝要因探索研究の一部は、製薬企業との共同研究に発展しています。
【コーディネーターから一言】
特殊技術で作成する脳疾患モデルマウスを用いて、脳の発達に影響する遺伝・環境要因を探る研究です。発達障害等の遺伝素因の同定が目的。臨床医や脳科学等の研究者、製薬企業との共同研究、マウスの提供が可能です。
研究分野:神経科学、生理学、神経発生学、神経発達学、精神・神経疾患、分子生物学
キーワード:脳発達、神経回路、遺伝要因、環境要因、発達障害、自閉スペクトラム症
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